SDGs INTERVIEW

会社と女性社員の“意識”から地域の男女間格差を変えていく|社会保険労務士・小田切克子事務所の取り組み
INTERVIEW #02

会社と女性社員の“意識”から地域の男女間格差を変えていく|社会保険労務士・小田切克子事務所の取り組み

Office SOLA
代表 小田切克子さん

日本の労働力人口が減少の一途をたどる中、女性社員の活躍が見直されています。そんな中、とくに地方では、女性がやりがいを持って働ける仕事や職場を作るのに苦労している企業も多く見られます。

そんなとき意識するとよいSDGsのターゲットが2つあります。5番の「ジェンダー平等を実現しよう」と、8番の「働きがいも経済成長も」です。この2つの実現に向けて女性活躍推進に取り組む社会保険労務士事務所が、静岡県浜松市にありました。

小田切克子事務所 Office SOLAです。代表の小田切克子さんに、地方における女性活躍推進の現状や、中小企業が女性活躍推進に取り組むメリットなどを教えていただきました。

プロフィール

小田切 克子

浜松市生まれ。小田切克子事務所代表。定年や男女格差なく働ける仕事を探し、行政書士の資格を取得する。その後、社会保険労務士に合格、下積みを経て独立。女性活躍推進に特化したコンサルティングやセミナーを展開する。ファイナンシャルプランナーやキャリアコンサルタントとしての相談実績が強み。浜松市男女共同参画アドバイザー、静岡県女性活躍アドバイザーなど。

「働きやすさ」と「働きがい」の両面から女性社員の活躍・定着を支援する
小田切さんは、女性活躍推進に特化された社会保険労務士だと聞きました。
はい、事務所の経営理念「女性の経済的・精神的自立を応援します」をもとに、女性活躍推進に関するセミナーや職場の改善支援を行っています。そのようなメニューに特化したのは今から5、6年前ですが、女性の活躍支援はずっと取り組みたいと思ってきました。
以前から女性活躍支援を行いたいと思っていたのですね。そのきっかけは何ですか?

もともとは塾講師をしていたのですが、夜型の職業のため長く続けるのが難しくて……好きな仕事なのに若いうちしか働けないことを、とても残念に感じたことがきっかけでした。

その後、おばあちゃんになっても働ける仕事、つまり「定年のない仕事」に就きたいと考えて社労士になった経緯があります。ただ、女性の活躍を支援する背景には、女性も男性と同じだけ稼げる社会になってほしいという思いがありますね。

“稼ぎ”にこだわるのは、なぜですか?
男性と比べて女性の稼ぎが少ないような社会構造は、結果的に間接差別へ繋がるからです。その中で悲しい思いや悔しい思いをする女性たちを減らしたい。そんな思いが活動の根底にあります。

たとえば、女性は事務仕事で男性は現場というように、性別で役割を分担している会社が地方にはまだあります。すると女性が就くのは補助的な仕事となり、男性との賃金格差が生まれます。男女間で賃金格差があることを訴えても、「担っている仕事が違うから」と済まされてしまいがち。言われた方は返す言葉がなく、職場で理不尽なことがあっても我慢するしかありません。
女性が性差別により嫌な思いをするのではなく、本来の能力を発揮し働けるような職場を作りたいとお考えなのですね。そのためには、どのような取り組みが必要でしょうか?
職場の「働きやすさ」を高める取り組みと、女性社員の「働きがい」を高める取り組みの2軸が必要です。

「働きやすさ」を高めるためには、職場理解と環境整備が必要です。職場理解はまず、女性活躍推進が必要な理由を管理職向けにお話させていただくところから始まりますね。また、何がハラスメントに当たるのか、その知識を深めていただくことも重要です。

環境整備については、企業ごとに職場の労務環境をチェックして課題を洗い出さなければいけません。お手洗いや更衣室の数と整備状況、さまざまな観点でチェックして改善の道筋を作ります。あわせて、女性が安心して相談できるハラスメントの相談窓口を整備するのも重要なお仕事です。

そうして「働きやすさ」を高めても、実はそれだけでは不十分。会社は経営が成り立ってナンボですから、女性社員側も会社に貢献する意識を高めなければいけません。

そのため、もう1つの軸である「働きがい」を高める研修にも力を入れています。たとえば、キャリアビジョン研修やライフプラン研修など。ライフプランにもとづき、各自でマネープランを立ててもらうことも、長く働いてもらうためには重要です。
小田切さんは静岡県浜松市を拠点にしていますね。浜松における女性活躍の現状はいかがですか?
浜松市では、若年女性の流出が社会問題になっています(※)。大学進学を機に首都圏に行って、そのままあちらで就職してしまう人が非常に多いのです。

首都圏で働くことを選んだみなさんに話を聞いてみると、地元には魅力的な仕事が“ない”と言います。彼女たちのスキルを活かせる仕事が、浜松で見つからないということです。高学歴で優秀な人も多いので、もったいないことです。

参考:政令市でも若者の流出が続く「静岡と浜松」の苦悩 | 街・住まい
浜松の企業は対策が急がれますね。
浜松の主要産業は製造業や建設業です。力仕事であったり、(お客さまの納期に間に合わせるため)長時間労働を必要とするビジネスモデルだったと思います。そうした背景があり、現場は男性の仕事、女性は事務作業という役割分担ができたんですね。

ただ、今後もそのままのビジネスモデルでいては、優秀な人材が集まりづらい時代に入っています。地方の中小企業は人材採用がただでさえ大変なのに、今あるリソースを活かせないのはもったいありません。

女性の力を活かす仕組みを作っていかなければ生き残れない、その危機意識を持てるかどうかが重要です。
小田切さんが支援をしてきて、変わった企業はありますか?
建設業や運送業、製造業など、今まで男性中心と思われていた現場に女性が入ることで、さまざまな工夫が生まれています。たとえば、工具が重すぎる、火花が散って危ないなどの問題を解決するために、機械化の進んだ企業がありますよ。

働く時間に制約のある女性が働きやすい職場を作ろうと工夫したら、全員が定時で帰れる職場になった事例もありました。「くるみん」や「えるぼし」をはじめとする国の認証を受けることで、エントリーシートの数が何十倍にもなった企業も見てきました。
女性の活躍を支援することが、誰もが働きやすい職場作りに繋がるのですね。強力な示唆をありがとうございます。
ただ、女性の活躍を性別ありきで考えてしまってもいけませんね。女性に限らずさまざまな人がいて、みんながそれぞれに活躍できる職場がベストだと考えています。
「地べた」からの改革で浜松を働きやすく、より良い人材が集まる街に
小田切さんは浜松市の中でも中小企業を支援しています。そこに注力するのはなぜでしょうか?
地域の中小企業には、「人を大切にする社会」を実現する力があるからです。大企業は組織が大きすぎて、改革を行うには時間がかかりますが、中小企業は社長の一声で変われる可能性があります。

1社1社の女性活躍が進んでいけば、気付いたときには魅力的な会社が一気に増え、街が一変するかもしれません。なので私は、今の活動を「地べたからやっていきたい」といつも言っているんですよ。
多様な人材が活躍できる職場を実現することが、企業の魅力を高め、優秀な人材が集まる街になっていきますね。それでは最後に、今後の目標をお聞きできますか?
最終的なゴールは、ジェンダー平等です。女性も男性も、すべての人が自己実現できる社会を作りたい。そのために、まずは女性の活躍推進からと思って今の活動を続けています。

女性が自分の人生を自分で決めて生きられる社会を作るのが目標です。そのために私は、この浜松市で中小企業の働く環境を整えていきたいと思います。
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