SDGs INTERVIEW

「すべらん革命」 高齢化社会を背景に、転倒によるリスクを未然に防ぐ”滑り止め対策”を普及する |株式会社イーモアの取り組み
INTERVIEW #10

「すべらん革命」 高齢化社会を背景に、転倒によるリスクを未然に防ぐ”滑り止め対策”を普及する |株式会社イーモアの取り組み

株式会社イーモア 企画管理本部 本部長
山田佳子さん

浜松市の株式会社イーモアは、「防滑(ぼうかつ)」をキーワードに、人の集まる会場や交通機関、店舗等で転倒による怪我や死亡事故を未然に防ぐ活動をしています。公益財団法人 静岡県産業振興財団が実施している、令和3年度SDGs貢献企業支援事業にも採択されている活動です。

防滑事業「すべらん革命」を展開し、「防滑(ぼうかつ)」=「滑り止め対策」を普及しようと邁進する株式会社イーモアの活動について、企画管理本部 本部長の山田佳子さんにお話を聞きました。

屋根の施工がきっかけとなり生まれた「防滑ビジネス」
まず、貴社の事業内容について教えていただけますか?
株式会社イーモアは、全国展開している防滑事業「すべらん革命」の本部として運営しています。「防滑(ぼうかつ)」=「すべり止め対策」のことで、これからの高齢化社会に向けて、新たなビジネスの重要なキーワードと確信しています。

具体的には、特許取得した防滑材「クリアグリップ」と「カパラグリップ」を製造し、自社での施工及び、全国の「すべらん革命」加盟店へ供給しています。また、簡易的スプレー防滑材「つるっとガード」、自分でできるDIY防滑キット「すべらんじゃん」の販売を行っています。
防滑事業を始めたきっかけは何ですか?
私たちの防滑ビジネスは、現在は別会社である屋根の施工会社「名倉ルーフ」が開発した、屋根コーティング剤「エコカパラ」からスタートしました。これは、瓦廃材を活用した商品で、屋根に塗るだけで遮音性・遮熱性を高める画期的な特許商品です。

エコカパラが、屋根施工で高い評価を受け、施工事例が増える中で、この商品のもう一つの可能性が見えてきました。それは、エコカパラを施工した屋根は、滑る心配がなく、職人が安心して仕事ができるという点です。

ちょうどこの頃、高齢者の転倒事故が急増しているというニュースを耳にしました。その数は年々増え続け、2021年は、交通事故による死亡者数3,536人に対して、転倒/転落による死亡者数は1万202人(※)にも上ります。さらに、そのうちの85%が60歳以上の高齢者によるものになります。この衝撃的な事実を知り、自分たちにできることがあるのではないかと考え、防滑事業に注目し始めました。

※2021年 厚生労働省による人口統計「死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率」の転倒・転落・墜落の数
屋根コーティング剤の特徴と現代社会に潜む問題がリンクして、新しいビジネスが生まれたのですね。
そうですね。滑りにくいというエコカパラの特性を応用して誕生したのが、防滑材「カパラグリップ」です。カパラグリップは防滑力・耐久性に非常に優れているので、今までは屋根への施工だけだったものが、工場床面・道路・階段など、新たな場所にも防滑施工を行えるようになりました。

さらに、美観を損なわない、ほぼ透明な滑り止め材(防滑材)「クリアグリップ」も開発し、施工実績を増やしてきました。現在、静岡県内のカパラグリップとクリアグリップの施工累計実績は、1,000件以上となりました。
防滑材にも複数の商品があるのですね。それぞれの特徴について詳しく教えてください。
幅広い場所で使えるように、現在は4つの商品を販売・施工しています。
先ほどお話しした「カパラグリップ」は、コンクリートや金属の表面に塗布するだけで、強力な摩擦力が得られます。車両やフォークリフトなどのタイヤスリップも防ぐ、防滑力・耐久力の要求に応える滑り止め材です。

「クリアグリップ」は、ほぼ透明な防滑材のため、床材の見た目を変えることなく施工ができます。タイルや御影石などの美しい風合いはそのままに、滑り止め効果を実現し、万一の転倒事故を防ぎます。店舗やトイレの床、ロビー、介護施設内の浴室など、幅広い用途にご利用いただいています。

家庭用滑り止めスプレー「つるっとガード」は、当社とNEXCO中日本グループが共同開発した家庭向け商品です。滑り止め対策をしたい場所に、さっとスプレーするだけで、手軽に、低コストで対策ができます。

ローラーで床面を塗装するタイプの「すべらんじゃん」も、自分でできる防滑材として開発しました。ご自宅やお店の床を低コストで滑り止め対策ができます。
企業向けだけではなく、個人で利用できる防滑材も販売しているのですね。
主に企業への啓蒙活動や、施工場所も工場や公共の場へ行うことが多いのですが、どこでも転倒事故は起こりうると考えています。小さい面積を希望される個人店やご自宅でも、低コストで滑り止め対策していただけたらと思い、開発しました。
安全のための防滑材ではありますが、エコにも配慮した商品だと伺いました。どのような特徴があるのですか?
全ての防滑材は、廃棄される瓦や陶磁器を粉砕し、原材料としています。この廃瓦・リサイクル陶磁器片が凹凸となり、グリップ力のあるすべり止めとなります。また、環境汚染につながる酸も使用しません。土にかえる自然素材ですから、施工後の安心感も違います。

さらにカパラグリップに関しては、「静岡県リサイクル認定製品」にも認定されている商品です。静岡県が2005年から始めたこの制度は、廃棄物または廃棄物であったものを原材料として製造・加工されたリサイクル製品のうち、品質や環境安全性について基準を満たした製品を認定するものです。

認定後には、総合提案誌「日本の新技術・新工法」(2016年8月31日発行)にも紹介されています。防滑材の特徴やリサイクル材の利用についてなどをインタビューしていただき、商品や防滑事業について発信する機会となりました。
今までどのような場所の施工を行ったか、施工事例を教えてください。
金融機関のエントランス、工場内の通路など、様々な場所で施工させていただきました。皆様ご存じの施設では、エコパスタジアムのスロープや地下駐車場、浜名湖競艇場、ナゴヤドーム(現バンテリンドーム)の階段に、豊洲ぐるり公園の歩行帯にも施工しています。

事業スタート時は浜松市内での施工が多かったですが、現在は東海地区をはじめ全国各地で施工させていただいています。
“人々の生命を守る” その使命を胸に「すべらん革命」を普及
防滑事業を進める中で、「すべらん革命」と名付けてブランド化したのはなぜですか?
2011年に株式会社イーモアとして防滑事業をスタートした当初は、自社だけで防滑事業を進めていました。その後、当社の防滑材を利用して施工したい、販売したいという要望を全国からいただくようになり、2020年6月から「すべらん革命」と名付け、防滑事業の全国展開を始めました。

また、防滑事業の認知度をよりスピーディーに拡大し、年々増え続ける転倒事故を一つでも多く減らしたいと考え、加盟店募集(フランチャイズ方式)を開始しました。今では私たちの趣旨に賛同し、共に「防滑」を社会に広めていくパートナーの数は、全国に約50社にも上ります。
どのような想いを込めて、事業を運営・展開しているのでしょうか?
「すべらん革命」は、「転倒事故から人々を救い、命を守る」という社会的に意義のあるビジネスを、全国に普及させたいという信念から生まれました。「革命」という言葉は、世界を変えようとする創業者の熱い想いが込められています。

人々の生命を守る滑り止め事業「防滑」という仕事に、大きな使命と誇りを感じながら、優れた商品の開発・施工・販売・普及を進めています。
転倒事故で亡くなる人が1人でも少ない社会を目指して
事業展開する中で、苦労した点はありますか?
当社創業者である会長の名倉孝次からは、創業当時を振り返り「いつも苦労と失敗ばかりだった」と聞いています。
当時は、金属にも密着する塗料というものがなかったため、まずは主剤となる樹脂(接着剤)を探すのに苦労し、化成メーカーと共に試行を重ねました。アイデアを実現するのには苦労しましたが、だからこそはがれにくい屋根材が完成し、そこから防滑材として新たな商品が生まれました。

施工前の洗浄剤が適切なものでなかったため、施工後に全てはがしてやり直すというような事例もありました。現在では、施工前の洗浄剤も開発・提供し、加盟店向けに研修会を開催することで、どの店舗でも同じクオリティで施工ができるように活動しています。
一方で、嬉しかったエピソードがあればお聞かせください。
例えば、ある施設のお風呂場では「転倒する人がいなくなった」と、感謝の声をいただきました。「これで安心して歩ける」「これはすごい」「こんなすべり止めがあるのか」など、ご満足いただいたお客様のお声は、事業を行っていく上でとても励みになります。 今後も安心安全を提供し、より元気で長生きできる環境づくりのお手伝いをしていきたいです。
リサイクル材を原料にした商品で、転倒事故を未然に防ぐ。防滑事業は、SDGsへの達成にもつながっているのですね。
そうですね。高齢者の「寝たきり」の大きな原因の一つには、転倒事故があげられます。高齢化社会が進むと同時に増え続ける転倒事故をはじめ、労働環境下での転倒事故の防止を進め、すべての人へ安全な生活を届けられるように、今後も防滑施工を広げていきたいです。

また2022年には、益財団法人 静岡県産業振興財団が実施している、「SDGs貢献企業支援事業」 に「防滑プラットフォームの事業化」として当社の防滑事業が採択されました。私たちの進める防滑事業や商品が、SDGsにも貢献すると認めていただけたことは、とても誇らしく思いました。
ありがとうございます。それでは最後に、これからの展望について教えてください。
「クリアグリップ」や「カパラグリップ」は着々と広まり、設計段階でご指定を承ることも増えてきました。施工した企業様からは、リピートや紹介も多くいただいています。今後も期待に応えられるように、既存商品の改善を行い、お客様の高い要望に応えられる商材作りをしていきます。

また2022年には、カー用品の取り付け・販売店として全国展開する「イエローハット」のグループ会社となりましたので、より広く防滑事業を展開していけると考えています。施工が増えることで、転倒事故で亡くなる人を一人でも減らせるように、今後も取り組みを進めていきたいです。
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