SDGs INTERVIEW

食を通じた「つながり創造企業」 人を大切にするサスティナブル経営|製菓製パン材料・機械の専門商社 平出章商店の取り組み
INTERVIEW #12

食を通じた「つながり創造企業」 人を大切にするサスティナブル経営|製菓製パン材料・機械の専門商社 平出章商店の取り組み

代表取締役 平出慎一郎さん

お菓子・パンの材料や道具、機械を販売する老舗商社「平出章商店」。創業70年周年の節目に「つながり創造企業」という理念を新たに掲げ事業展開しています。
今回、代表取締役の平出慎一郎さんに、「つながり創造企業」という企業理念に込めた想い、そしてそれを元に展開するSDGsへの取り組みについてお話を聞きました。

プロフィール

平出慎一郎

1977年、静岡県浜松市生まれ。京都産業大学経済学部を卒業後、東京の和菓子材料問屋と洋菓子材料輸入会社で経験を積む。2004年、家業である製菓製パン原材料・パッケージ・機械の専門商社「株式会社平出章商店」へ入社。現在は同社代表取締役として、菓子業を通じて笑顔を届けながら、業界発展や地域貢献へ寄与できるように事業展開する。

「つながり」が人を育てる
まず、貴社の事業内容について教えてください。
弊社は昭和24年の創業以来、製菓製パン原材料、パッケージ、機械の専門商社として、浜松を中心に西は豊橋から東は富士・富士宮まで、地域に密着をした営業を続けています。

菓子業は常に幸せの隣にある特別な仕事です。ショーケースを眺める姿、バースデーケーキが運ばれてくる瞬間など、どのシーンを思い浮かべてもそこには笑顔があります。そんな菓子業界のために、幸せと誇りを感じながら誠心誠意仕事に向き合っています。

業界を取り巻く環境は日々変化していますが、そんな中だからこそ商品管理に磨きをかけ、安心安全で最適な材料を提供し、お客様の発展につながるご提案させていただいています。
貴社では「つながり創造企業」という経営理念を掲げ運営していると伺いました。どのような経緯でこの理念にたどり着いたのですか?
松下電器(現在のパナソニック)の創業者である松下幸之助氏のエピソードの中で、感銘を受けたものがあります。

まだ誰も松下電器を知らない戦前当時、一人の幹部社員が外部の会合に出かけた際に、「松下電器って何をつくる会社ですか?」と質問され、「電気製品をつくる会社です」と答えたそうです。会社に帰ってきたその社員がこのやり取りを報告した際、社長である松下幸之助氏は、「社員の一人一人が人間として立派にならない限りは、本当の意味でいい仕事ができない。だから、松下電器は電気製品をつくる前に、人間をつくる会社や」と言ったのです。そしてさらに、「もう一回言い直してこい」と指示したそうです。“電気製品をつくると同時に人をつくる会社“、私はこのエピソードをきっかけに、私たちのミッションは何かを考えるようになりました。

そんな中、弊社では創業70周年を節目にプロジェクトチームを立ち上げ、経営理念の見直しを行いました。その際、創業者がどんな思いで事業を立ち上げたのか、お客様が弊社に対してどう評価し何を期待しているのか、弊社の社員がどんな思いで働いているのかなどを洗い出しました。その中で出てきたのが、この「つながり創造企業」という言葉です。

私たちの創造する「つながり」が人を育て、それが業界発展や地域貢献へとつながるよう目指しています。
具体的に、どのような「つながり」を創造しているのでしょうか?
私たちの本業である卸売業は、原材料メーカーとお菓子屋さんをつなぐ仕事です。しかし、弊社が創造したい「つながり」はこれにとどまりません。

まずは、お菓子屋さん×お菓子屋さん。弊社は以前より、洋菓子・和菓子業界などの協会や勉強会の事務局の仕事を多数引き受けてきました。「多くのお役目をいただき、ありがたいことだけど負担も大きい…」と感じたこともありますが、これが「つながり」を生み、皆に貢献することが我々の使命だと気付くことができました。これからも会社の使命として、務めていきたいと考えています。

また、農業生産者とお菓子屋さんをつなぐ仕事にも取り組んでいます。浜松市は全国有数の農業都市でもあり、特に果物分野は全国2位の農業生産額を誇ります。地元産フルーツと、それを使ったお菓子を全国に誇るブランドとして育てたい!そんな気持ちで、生産者様が大事に育てたフルーツをお菓子に使える材料に加工しています。

そして、70年間築いてきた信用を次世代につなぎ、安心安全に暮らせる環境を次世代につなぐこともなどもミッションとしたいと思っています。子供や孫の代に少しでも良い形でバトンを渡せるよう、社員や業界内へ向けてサスティナブルな意識を高めていくよう取り組んでいます。
業界発展や地域貢献へとつながる“人を大切にする経営”
「サスティナブル」をキーワードに掲げ、企業としてSDGsへの取り組みを進めようと決めた理由はどこにあるのでしょうか?
私の経営の原点は、人財教育のスペシャリストである上甲晃氏が主宰する青年塾と、経営学者の坂本光司先生による“人を大切にする経営”です。

上甲氏が伝える「志」は、「みんなが幸せになってこそ、自分も幸せになれる」というものです。また、坂本先生は、企業は常に「5人の利益」を追求しなければならないと説かれています。「5人」とは、「社員とその家族」「社外社員とその家族」「顧客」「地域社会」「株主・出資者」のことです。いずれも、「自分たちだけが幸せではいけない」というものですが、私はこの教えを純粋に捉え、経営者としての責務だと感じています。

多くの方々に支えられ、70年もの長い間経営を続けて来ることができたからには、純粋に社会に役に立ちたいという想いを常に持っています。今では当たり前となっているサスティナブルやSDGsという言葉もこれら学びの中で知り、経営理念の中に取り入れていきたいと考えるようになりました。
貴社で取り組んでいる具体的な活動について教えてください。
私が社長に就任した10年前に、「5S委員会」や「レクリエーション委員会」などといった委員会を社内に設けて、それぞれ目標を定めて活動する組織づくりをしました。そして、「つながり創造企業」という理念を掲げたのとほぼ同じタイミングで、新たに「SDGs委員会」を発足しました。

SDGs委員会では、まずに社内でSDGsに関する知識を深めるために、現状を知ることからスタートし、我々製菓業界を取り巻く世界情勢や環境問題について調べました。これをきっかけに、弊社が取り組める具体的な活動についての検討を行い、具現化しています。
社内での情報共有のために委員会メンバーが交代で「SDGs通信」という社内誌も制作し、SDGsに関する世界の現状や17の目標について発信してきました。テーマを定めて定期的に発信することで、社員全員が同じ方向を向いて仕事に向き合う学びを得ることが出来たと思っています。
SDGs委員会を発足してから、社内へ良い影響はありましたか?
発足当初は、SDGsについて学ぶことをテーマに活動をしました。そしてSDGsへの理解が深まる中で、すでに以前から会社で行っていたことが持続可能な社会のために役立っていると改めて認識できたこともあります。例えば、太陽光パネル設置やLED電球の仕様、障がい者施設が作っている環境にやさしい素材のトイレットペーパーの購入、弊社封筒のベジタブルインクの使用、地元の農産物を使った商品開発などです。

また、新たに始めたことや進めていることもあります。プラゴミ問題については、焼却処分されていた事業系プラゴミを再生処理に出すようにした他、いただいたお中元やお歳暮で社内オークションを行い、集まった金額をボランティア団体に寄付しております。

食品ロスについては、宴会では残さず食べることをアナウンスするようにしたり、地元のオイスカ高校様にご協力いただき、やむを得ず期限が切れてしまった「賞味期限切れ商品」を堆肥として有効活用できないか試したりしています。

また、障がい者支援として、障がい者施設に一部社員の名刺の作成をお願いするようになりました。また、障がい者雇用にも取り組み、現在複数名が働きがいをもって活躍してくれています。小売店舗では、有機加工食品の生産工程管理者の認証を取得し、有機食品の販売を強化しております。

SDGsの意識が社内に浸透することで、社員一人一人の行動も、環境や社会、地域のことを考えたものに少しずつ変わってきているように感じます。現在は、サスティナブルな商品とそうでない商品を選べる時代です。このような取り組みをしない会社は、長期的には淘汰されるということを学ぶきっかけになったとも思います。
この他にも、SDGsに関する取り組みを行っていると伺いました。どのような活動なのでしょうか?
そもそも私がSDGsという言葉を知ったのは、「ゾウの森とポテトチップス」という絵本との出合いがきっかけです。子供と一緒に出かけた動物園で手にした絵本なのですが、普段私たちが何気なく口にしているポテトチップスなどに使われるパーム油を収穫するために、ボルネオ島の熱帯雨林が破壊され、ゾウたちの命を脅かしていると書かれていました。食品商社としてこれら商材を取り扱っている身でありながら、何も知らなかった私は、この絵本に大きな衝撃を受けました。

これをきっかけに学びを深め、2019年にNPO法人「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」の賛助会員となりました。かつては豊かな熱帯雨林を有したボルネオもここ50年の大規模な伐採で様変わりをしてしまいました。生物はすみかを奪われボルネオだけの固有種を含むたくさんの生物が絶滅危惧種に指定されています。そんなボルネオの熱帯雨林だった土地を買い戻し、野生動物が行き来できる『緑の回廊』を回復させる活動を支援しています。

また、今期はカーボンニュートラルについて取り組みました。感覚的に気になっていたエネルギーロスを「具体的な数字」として把握したくて診断を受けることを決めました。

省エネ最適化診断を外部の専門員に依頼し実施したところ、課題は冷蔵冷凍庫と事務所のエアコンでした。特にコロナ対策で換気をしながらエアコンをかけていたこともあり、非常に効率の悪い環境でした。対策として、補助金も利用して全熱交換式換気扇の設置、エアコンの入れ替え、旧式の冷蔵機の入替などを行いました。
地域に必要とされる企業であり続けるために
SDGsに関する取り組み、その積み重ねによって得られた効果を感じますか?
“信頼できる企業”だと思っていただいていると感じます。良いイメージが伝わり、実際に新規顧客からお問い合わせを受けたり、求人募集にも良い影響があったりします。

求人募集においては、Z世代は特にこの気持ちを強く持っているためか、良い人財が集まるフックになっていると感じます。仕事を通じて「人のためになりたい」「環境に役立ちたい」など、自分のためだけではなく他者への貢献を重要視している若い世代には、未来の担い手として期待が膨らみます。
企業としてSDGsへ取り組む上で、課題として感じることありますか?
当初は目指す方向を内外に伝えるために“SDGs”という当時先進的な取り組みをキーワードとして掲げる必要がありましたが、最近はここで定める「17のゴール」というものを具体的に意識していません。

弊社の土台はあくまで経営理念。「社員の幸せ」「企業の永続」「社会への貢献」を追い求めていく中で、食を通じた「つながり創造企業」として、サスティナブル経営や人を大切にする経営をしていくだけです。
地球に優しい取り組み、弊社の強みを活かした地域貢献、人財育成、健康経営などを、弊社にとっては当たり前の行動として行っていきたいです。
最後に、今後の展望について教えてください。
浜松、静岡を拠点に、より地域に密着しながら弊社の強みを活かし、必要とされる企業であり続けたいと思います。少子高齢化、東京一極集中が進む中、地方都市の企業として何をすべきか。潤いのある生活、安心して暮らせる環境、学び続けられる環境を提供することで地域を盛り上げてい行きたいです。

現在、地域としてどういう場があるべきか模索もしています。弊社の所有する施設を有効活用して、地域の人たちが集える場所・学べる場所をつくることも一つのアイデアとして検討しています。
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