SDGs INTERVIEW

「ありがとう」でつながるSDGs、社会貢献を事業化するためにいちばん大切なこと|舩越造園の取り組み
INTERVIEW #01

「ありがとう」でつながるSDGs、社会貢献を事業化するためにいちばん大切なこと|舩越造園の取り組み

有限会社舩越造園
代表 舩越貴久さん

新聞記事やニュースなどを通じてよく見かける「SDGs」という言葉。日本語にすると「持続可能な開発目標」となりますが、具体的な取り組み方をイメージしようとすると難しいのではないでしょうか?

一般企業にとっては大きすぎる目標にも思われますし、なにより費用対効果が期待できなければ、SDGsに取り組む意味をなかなか見出せません。

そんな中、SGDsの観点から事業を再編し、障がい者雇用を拡大し続けている老舗の造園会社が静岡県浜松市にあります。有限会社舩越造園。「ありがとうの循環を作るのが大事」と語る代表の舩越貴久さんに、SDGsと造園ビジネスの関係性について聞きました。

プロフィール

舩越 貴久

浜松市生まれ。東京農業大学でランドスケープや都市・庭園づくりについて学ぶ。卒業後に浜松へ帰省。地元の老舗造園会社で現場経験を積んだ後、舩越造園に入社する。2010年より障がい者施設と提携し、庭の草取りサービスやお墓の草とり・墓参り代行サービスを開始する。2014年、同社代表取締役に就任。草取り・墓参りサービスは北海道から九州までをカバーし、拡大を続けている。

多様性あふれる社員が働く1963年創業の造園屋
はじめに、舩越造園について教えてください。
舩越造園は、1963年から数えてもうじき60年を迎える造園業の会社です。奥浜名湖に位置する浜松市細江町という歴史ある町で創業しました。私の祖父が庭職人として独立開業し父が継ぎ、私で3代目になります。
造園というと、個人宅の庭づくりが主な仕事なのでしょうか?
そうですね、件数は個人のお客さまが多いです。ほかにも企業の緑地管理や自治体から緑地保存のお仕事も多くいただいています。少しずつお客さまが増え、対応エリアも浜松全域に。社員数も私が3代目を継いだ当時から倍になりました。
どんなきっかけで入社してくる社員さんが多いのですか?
それこそ10代から70代まで幅広い年齢の人が働いていますが、理由はさまざまです。

私たちが道路の植込みを整備しているのを見て、街をきれいにする仕事をやりたいと入ってきた人。好き勝手に生きてきたけれど、親御さんのご病気をきっかけにちゃんと働こうと思って入ってきた人もいます。
社会貢献性の高い経営をされていらっしゃるのですね。
たしかに、社会に役立つ仕事をしたいと思ったときに、弊社を思い出してくれる人が多いかもしれませんね。
月給12,000円をどうにかしたいーー本当の支援をするために「ありがとう」が循環する仕組みを作る
そんな舩越造園では、SDGsにまつわるどのような事業を展開していますか?
2010年に「やさしい草とりサービス」を始めました。これは地元の障がい者施設と提携して、個人宅や企業の草取りを障がい者のみなさんに代行いただく仕組みです。弊社が窓口となり、ノウハウの提供や契約先の新規開拓をしています。

当時は「SDGs」なんていう言葉はありませんでした。ですが今考えると、やさしい草とりサービスが弊社のSDGs事業のはじまりだったと思います。
どんなきっかけで、やさしい草取りサービスを始めたのでしょうか?
障がいのある人と地域・企業をつなぐ非営利法人の職員さんが弊社を訪ねてきたことでした。作業所(障害者就労支援施設)のみなさんが作ったクッキーを、会社の粗品に使ってほしいとお願いに来られたんです。そのとき、作業所で働く知的障がい者の平均賃金が、月額わずか12,000円であることを教わりました。
“月額”で12,000円ですか?
そうです。なぜなら作業所での仕事は、あくまで職業訓練の位置づけだからです。とくに一般企業への就職が困難な方を対象とするB型雇用においては、最低賃金を守る決まりがありません。

とはいえ、月12,000円ぽっちの給料では生活できませんよね。どうしてこんなことになっているのだろう、障がい者の人たちが喜んで働ける仕組みを作れないだろうか、と目を付けたのが草取りです。

それまで草取りのご依頼は、職人の時給が作業に見合わないため受けられずにいたのです。草取りの仕事を作業所に委託できれば、働き手の報酬を多少なりとも増やせます。お客さまも弊社に草取りを依頼することが、障がい者の就労支援につながって良いと考えました。
とはいえ、粗品としてクッキーを購入するだけでも十分な支援になったと思います。そこから一歩進み、舩越造園としてできることを考えたのはなぜですか?
それは、僕がかねてから「支援は寄付だけでは上手くいかない」と思っているからです。もちろん寄付も意義ある活動ですが、寄付では賄いきれない「何か」があるような気がしていました。
寄付では賄いきれない「何か」、ですか。
とある企業からのご依頼で、やさしい草とりの現場にでかけたある日、それが何であるのかやっと分かりました。草を取り終えて片づけをしていると、担当者の方が来られてお茶を配ってくださったんです。「助かりました、ありがとうございます」と、1人ひとりに声をかけながら。

その担当者さんの感謝の言葉を聞いた瞬間、作業者の方の雰囲気が一変しました。ガラガラという音が実際に聞こえたかと思うほどでしたよ。そこで気付いたのは、障がいを持つみなさんにとって、人から言われる「ありがとう」がどれだけ尊いことであるのか、です。
寄付では賄いきれないこととは、人から「ありがとう」と言われる経験だったのですね。
そうです。自分がしてさしあげたことに対して相手から「ありがとう」と言われる体験は、人間にとって何にも代えがたい貴重な体験です。自分の存在意義や社会に生きる喜びを感じられるからです。

寄付などの支援を受ける一方では、「ありがとう」と言う立場になってしまいます。「ありがとう」と言われる体験を作るには、仕事として社会に溶けこむ仕組みにすること。これが社会貢献を考えるにあたって非常に重要な観点だと思います。

舩越造園では遠方にいる人に向け、お墓参りやお墓の草取りを代行する「やさしいお墓参りサービス」も全国展開している。
引用:やさしいお墓参りサービス公式サイト
SDGsを事業として継続できる形にするのが経営者の役割
とくに中小企業の中には、SDGsをどう自社に落とし込めば良いか悩んでいる企業も多いと思います。
SDGsに対する舩越さんの考えを聞かせてください。
SDGsには1番から17番までのゴールがありますが、どのゴールでも大切なことは一つだと思っています。それは、持続可能な取り組みとして仕組み化することです。一方的な援助ではいけません。それでは継続が難しくなってしまいます。
持続可能な取り組みにするためには、どうすれば良いでしょうか?
社会的な課題を目の当たりにしたときに、自社にできることを考えること。そして、事業として継続できる仕組みにすること。この2点です。「ありがとう」が循環する仕組みを考えると、自然とその2点が達成できるはずです。
ありがとうございます。それでは、これからはどのように発展していきますか?
より多くの人に貢献していきたいですね。具体的には、やさしい草とりサービスの新規受注によって20万人分の仕事を創出していきます。
なぜ20万人分なのですか?
約20万人が両腕を広げて手をつなぐと、浜松から東京までの距離に達するからです(※)。より多くの人に参加してほしいーーそんな想いで立てた目標です。2021年6月に「ありがとうでつなぐ20万人プロジェクト」としてスタートしました。
※約250キロメートル。両手を広げたとき右手の先から左手の先までの長さを、1.25メートルとして計算。
すばらしい取り組みですね。このプロジェクトには、どのようなビジョンがありますか?
20万人の仕事を創出するだけがゴールとは思っていません。このプロジェクトを障がい者みなさんの収入向上につなげていきたいです。

静岡県の統計データから、作業所の平均賃金を時給に換算すると、今でだいたい350円くらいです。これを600円以上にしたい。せめて、600円まで近づけていきたい。そう思って取り組んでいます。
20万人を達成するために、どのような施策が必要でしょうか?
緑地保全をお任せいただく企業さまを増やすことです。企業は敷地が広いので、継続的な仕事が確保できるからです。作業と人員の与件が立ち、作業所も人材を確保・訓練しやすくなります。

なにより継続的な仕事があることで、作業員みなさんのモチベーションにつながります。作業所の建物周りに生えていた雑草を自分から取りはじめる人もいるほど。もっときれいに草を取りたい、と自主的に練習してくれるんです。

そうした姿を見ていると20万人を達成する意欲が湧きます。だからこそ、それぞれの企業におけるSDGsが一過性の流行りではなく、事業の形をとって広がっていくことを願っています。
BACK
pagetop