SDGs INTERVIEW

介護福祉業界の課題解決につなげるSDGs|ウェル恵明会株式会社の取り組み
INTERVIEW #05

介護福祉業界の課題解決につなげるSDGs|ウェル恵明会株式会社の取り組み

ウェル恵明会株式会社 専務取締役
鈴井慎太郎さん

健やかな暮らしを支えるインフラとして、SDGsと深いかかわりのある介護福祉業界。しかしながら、サービス料の多くが介護保険制度により固定化されるため、サービスの付加価値を高めたくても難しい側面もあります。

そんな中、静岡県浜松市を拠点に、認知症高齢者向けグループホームや障がい児向け放課後等デイサービスなどを展開するウェル恵明会株式会社では、人の尊厳を大切にする介護・福祉を実施してきました。

職員のウェルビーイングを確保しながら、経営理念にもとづいたSDGsの取り組みを推進。その結果、従業員満足度の向上やサービスの質の向上などさまざまな効果が表れているとのこと。介護福祉業界におけるSDGsについて、同社の専務取締役、鈴井慎太郎さんにお話を聞きました。

プロフィール

鈴井 慎太郎

1988年、静岡県静岡市生まれ。小学1年生時に浜松市へ転居。高校を卒業後、中国の国家重点国立大学 北京語言大学経済貿易学部に入学。卒業・帰国後にウェル恵明会株式会社へ入社。現在は同社専務取締役として、ウェルビーイングの追求と時代に即した地域福祉の創造を目指す。

寄り添うケアで利用者のウェルビーイングを実現したい
まず、貴社の事業内容を教えてください。
弊社では、認知症を持つ高齢者の方を対象としたグループホームなど3カ所の認知症対応型 福祉施設を運営する介護事業と、発達に特徴のある就学児(6~18歳)向けの放課後等デイサービス7カ所を運営する障害福祉事業の2事業を展開しています。
利用者の増加にともない介護福祉施設の事業者数も増えています。そんな中、貴社の特徴はどのようなところにありますか?
私たちの特徴は、「再生」を意識しているところです。たとえば介護事業では「寝たきりゼロ」を目標に、利用者のみなさんが普段と変わらない生活を送れるような支援を行っています。

朝はきちんと離床いただき、食事や排泄についてもその方の意欲を大切に。そうした自立をベースとしたウェルビーイング(心身の健康と幸福)の実現を目指しています。

日々の生活を彩り、良好なメンタルを形成してくれる食事は、化学調味料無添加、自社調理にこだわる。
障害福祉事業にあっては、子どもたちの社会性や生活力を育みながら、個性を最大限に発揮してチャレンジできる環境づくりをしています。「障がい」という既成概念のない社会を実現することが私たちの目標です。

買い物をはじめとする生活支援のほか、ことばの改善プログラム、プログラミング教室なども展開
鈴井さんはどんなきっかけでウェルビーイングの実現を目指すようになったのですか?
私が未経験でこの業界に入ったためか、それが当たり前のことだと思っていました。母の存在も大きいと思います。じつはウェル恵明会は母が興した会社で、「寄り添うケア」を願う気持ちが誰よりも強いのが母なんです。介護保険制度により介護サービスの料金が決められている中で、どうしたら「寄り添うケアを」を経営上も実現できるだろう……それが私にとってのチャレンジでもあります。
SDGsの実践で人々の「生きる力」が育まれる
具体的には、どのようにSDGsに取り組んでいますか?
まず、私たちの事業そのものが、3番の「すべての人に健康と福祉を」に繋がっています。介護福祉事業は、地域に暮らす人たちのウェルビーイングを支えるインフラだと捉えれば、11番の「住み続けられるまちづくりを」にも寄与するでしょう。

そうした事業ベースに加え、企業理念に沿ってできることをしてきた結果、SDGsに繋がる独自の取り組みが自然と増えていきました。

たとえば、利用者さまの自立を助ける生活支援(10番「人や国の不平等をなくそう」に該当)や、地域住民を含めたさまざまな立場の人がともに学ぶ「共育」を提供すること(4番「質の高い教育をみんなに」に該当)がそうです。

じつは、5番「ジェンダー平等を実現しよう」にも取り組んでいます。圧倒的に女性職員が多かった職場に男性管理職を据えるなど、性別に偏らずすべての利用者さまのニーズを汲み取れる体制を目指してきました。
先ほど、介護福祉事業においてサービスの質の向上と利益確保を両立させるのは難しいという話がありました。この課題を解決するためにできる取り組みはあるでしょうか?
そうですね、それは8番「働きがいも経済成長も」にあたると思います。人手不足の続く介護福祉業界にとって必須の取り組みですね。私は2015年に入社して以来、職員の満足度や働きがいを高めることに注力してきてきました。

職員の働きぶりを給与に反映するためには、事業の拡充が必要でした。そこで入社当初はまず、職員1人ひとりと面談し、不満や不安に感じていることを聞いて職場環境を改善することから始めましたね。

その後、待遇面を改善していくにつれ採用力も少しずつ向上し、2016年には新卒採用もはじめられました。SDGsの8番を目指す取り組みは、今後も継続していくつもりです。
SDGsに関する取り組みを早くから行ってきたのですね。その積み重ねによって得られた効果はありますか?
意外な効果が、利用者のみなさんにSDGsを実践してもらうことで「生きる力」が育くまれるかもしれないことです。たとえば、障害福祉事業部では秋と夏にアート展を開催し、地域の総合センターに子どもたちの作品を展示していただいています。
2021年夏のアート展では『海』がテーマに決まり、実際に子どもたちと出かけてみたところ海岸にたくさんのゴミが落ちていました。はじめて海を見た子は、「海って、汚いところなんだね!」と感想を言いますし、とにかく衝撃で……。

SDGsの14番「海の豊かさを守ろう」というゴールを、子どもたち自身で考えてもらうことが大事だと考え、さまざまなアイデアを出してもらいました。そこで行きついたのが、海の漂流物でアートを創るという企画です。

そうして開いた夏のアート展では、使いきれなかった材料や展示を終えた作品が残りました。すると子どもたちはまた自ら考え、廃材をリサイクルして秋のアート展の作品にするという企画が実現してしまいました。

そんなことが実現するとは私も驚きましたが、SDGsにより子どもたちの生きる力が育まれることを実感した一件でした。
SDGsの取り組みには事業として発展する可能性も
近年、SDGsに取り組もうと考えている企業が増えています。これから介護福祉業界でSDGsを始めるなら、どのような点がポイントになるでしょうか?
経験上、私が一番のポイントだと思っているのが、17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」です。たとえば弊社では、運営推進会議と呼ばれる会合で毎月、地域との対話を進めています。この会議に参加される自治会長や近隣住民の方々とオープンに話し合うことで、施設の方針を決めているのです。

病院や行政との連携も欠かせませんし、おいしい食事を提供すること1つとっても地元の生産者さんのご協力がなければ実現できません。介護福祉事業は、地域の手助けなしにSDGsの1から16番のどれも達成できないと思います。
ありがとうございます。では最後に、これからの展望について教えてください。
SDGsの取り組みは自社の企業価値を高めるだけでなく、事業として拡大していく可能性を持っていると思います。たとえば弊社では、介護事業で提供している食事の総量が増えてきましたので、2022年4月にセントラルキッチンを作りました。そこで作った食事は、お弁当や宅配食の形で地域の方にもご提供していきます。最終的には、規格外の野菜など地場の生産物を活用し、おいしい食事にして地域の方に還元するというフードロスの仕組みを完成していきたいと思います。

また、人手不足は地域の中小企業のみなさんにとって共通の課題です。地域の中に人材採用から人材育成、人材マッチングまで担える企業の連合体を作れないかと画策しています。そのとき、SDGsに取り組む企業同士であれば、協業がうまくいきやすいと思います。SDGsを起点とするパートナーシップで事業を進歩させる視点が、中小企業の武器になるのではないでしょうか。
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