SDGs INTERVIEW

娘の学生服が買えない!個人の困りごとが全国的なコミュニティビジネスになるまで|学生服リユースショップ「さくらや」の取り組み
INTERVIEW #08

娘の学生服が買えない!個人の困りごとが全国的なコミュニティビジネスになるまで|学生服リユースショップ「さくらや」の取り組み

代表 馬場加奈子さん

進学するときの必需品として真っ先に思い浮かぶ制服。成長の著しい子どもの体型に合わせて買い替えが続くと、子育て世帯にとっては大きな出費となります。

そんな中、役目を終えた制服を買い取り、地域に再販しているのが制服リユースショップの「さくらや」です。代表の馬場加奈子さんは、シングルマザーから起業。きっかけは、「娘の制服が買えない」という切実な悩みでした。

子育てを優先する経営スタイルから、「そんな業態でビジネスは成り立たん!」と多くの経営者から酷評を受けても、自分の想いを諦めなかった馬場さん。自分の想いに確信を持ち、強くて優しいビジネスへと広げる秘訣を教わります。

プロフィール

馬場加奈子

東京女子体育大学卒業後、損害保険会社、生命保険会社などを経て、2010年に学生服リユースショップ「さくらや」開業。2013年に株式会社サンクラッド設立。2020年に特定非営利活動法人 学生服リユース協会設立。吉本興業文化人所属。

自分の小さな困りごとを見捨てない、さくらやが全国的な社会活動になるまで
まず、「さくらや」について教えていただけますか?
さくらやは、成長盛りの子どもたちが着なくなった制服を買い取り、地域のご家庭に再販する制服リユースのお店です。2011年に香川県の高松で起業してから、今では全国に約100店まで広がり、2022年9月にはオンライン通販も始まりました。高松と渋谷が直営店で、それ以外はさくらやパートナーさんによって運営されています。
制服のリユースを始めたきっかけは何ですか?
小学6年生になった次女に「制服がきつくなったから買い替えてほしい」と言われても、新品を買ってあげられなかったことでした。私たちの暮らす地域では、小学校でも制服が指定されています。当時、シングルマザーで3人の子育てをしていた私は、1万4,000円の代金が出せなくて……。

仕事に全力をかけていたのでママ友が少なく、“お下がり”をもらう機会もありません。リサイクルショップを回っても制服だけは見当たらないんです。職場でそんな話をしたら、同じように困っているお母さんたちがたくさんいて、ニーズを確信しましたね。

また、一番上の長女がハンディキャップを持っていまして。「この子が大きくなったとき、安心して働ける就職先を作ってあげたい」という想いから、自分で会社を経営しようと決意しました。
馬場さんが起業を決意するほど、シングルマザーの就労環境は厳しいものなのですね。
とくに小さな子どもを抱えながら働くのが難しいですよね。私は3番目の子どもが1歳に満たないときに、3人の子のシングルマザーになったので。子守りをしながらできる仕事は、ポスティング(チラシの戸別配布)の仕事だけでした。

それでも、月収は2万円が限度です。風の吹く日も寒い日も、ベビーカーを引きながらチラシを配る。家賃を滞納し、電気とガスも止められながら、子どもの将来に希望も持てない日々でした。


さくらや店舗は子どもも一緒にお店番ができる設計。
想像を絶するような状況にいらしたのですね……。
でも、がんばっていると周りが応援してくれます。その後、起業資金を貯めようと大同生命に就職したんですが、そのときの上司が「起業したときのため」と人生哲学を教えてくれました。そのとき教わったことは、今でも私の経営を支えてくれています。

何とか貯めた300万円を元手に起業したので、お店の賃料もめいっぱいは払えませんでした。ですが、物件のオーナーさんにさくらやの想いを何度も伝え続けたら、破格の賃料で物件を借してくださることになったんですよ。
諦めずに想いを周りに伝え、協力を得ていったのですね。
そうですね。子育てしながらお店を切り盛りしていれば、急きょ休まなければいけない日だって出てきます。ですが、普段からお客さんとコミュニケーションを取っていることで理解してもらえます。

そのうち、お客さんがお店の運営も手伝ってくれるようになりました。たとえば、制服や体操着に入っている元の持ち主さんの名前の刺しゅうを取り除く作業を、近所のおばあちゃんたちが手伝ってくれています。私が30分もかかって1つの刺しゅうを取るのを見かねて、「裁縫なら私に任せて!」とお客さんが進んで引き受けてくれたんです(笑)。

そんな背景から、さくらやではお客さんとの接点をとても大切にしています。私たちのお仕事は「地域共感ビジネス」だといえますね。
経営で一番大切なことは、子どもと過ごす時間を大切にできること
さくらやは店舗の運営スタイルもユニークだと聞きました。
まずは営業日が月・水・金・土の週4日で、営業時間も平日が12:00から15:00、土曜は10:00から15:00といった時間帯にしています(営業日時は店舗により異なる)。これは、子育て世代が無理なく働ける環境を優先しているため。

さくらやの加盟店は、さくらやパートナーさんによる会員制で運営しています。初期開業費用は170万円です。ここには、ロゴマークなどの商標使用権利のほか、店舗運営研修や販売促進・営業研修の費用が含まれます。

開業後は、9,500円の月会費をお支払いいただくのみ。月会費の範囲で、さくらやブログでの情報発信やPOSシステムの利用、さくらや本部からのサポートなどを受けていただけます。
本部への支払いがたったの月額9,500円とは驚きました。ロイヤルティは受け取らないのですか?
さくらやは、「自分も子どもの制服を買うのに苦労した。同じように悩む地域のご家庭を助けたい」というパートナーさんにより運営されています。その多くが子育てに励むパパ・ママなので、無理なく店舗を継続できることが最優先です。

ですから、ロイヤルティ収入により本部の経営が成り立つフランチャイズ形式にはしませんでした。本部の収入は、直営店の売上げのほか私の講演費でも賄えます。

たしかに経営者の先輩方からは、「そんな業態では経営が成り立たん!」「フランチャイズにしなさい」とたくさん叱られました(笑)。ですが私は、子どもとの時間を大切にしながら働けるお店づくりを曲げたくなかったんです。
逆風に遭ってもご自身の信念を貫けたのは、なぜですか?
単純に、「子どもたちと一緒に過ごせる時間は多くない」と思ったからですね。2010年、起業準備に入り家にいる時間が増えたら、子どもたちの会話が増えました。私が帰宅するやいなや「お母さん、お帰り!」「あのね、聞いて!」って、一斉に喋りかけてくるんですよ。この子たちの笑顔を手放したら、後で絶対に後悔すると思いました。

ですから、店舗の運営目標も、「子どもとの時間を大切にしながら、家計を支えるのに十分な収入を得られること」にしています。さくらやはスモールビジネスですが、パートナーのみなさんにとっても地域にとっても必要な場所として、お店が継続できることを重視しています。
誰もが自然体で地域と共生できる場を増やしたい
創業から12年、さくらやのビジネスの現状はいかがですか?
地域の困りごとを助ける場所になりつつあるのを実感しています。たとえば、千葉県の八千代店では、大人のひきこもり支援として、制服のアイロンがけを外部団体に依頼するようになりました。社会との接点を持ったことで自信を取り戻し、自ら他企業のアルバイトに就職した人もいます。人手不足といわれる現代でも、地域で活躍できる人材はまだまだ眠っているな、と感じます。

私の創業当時には影も形もなかった学生服のリユース市場は、いまや3.3億円に。体操服やランドセルをはじめ、制服以外の取扱い品目も増えていますし、手づくりグッズの販売や子ども食堂など新たな取り組みを始める店舗もあります。
日本でもSDGsの認知度が高まるにつれ、さくらやの協力体制も広がっていますか?
はい。SDGsは私たちにとっての追い風となり、2018年2月19日には、内閣府が主催する『子供の貧困対策 マッチング・フォーラム』に登壇させていただきました。

そのとき、役目を終えた制服を地域で循環させるプラットフォームのアイデアを発表。着終えてから5年以内の制服を寄付してもらう「回収ボックス」の仕組みが実現しました。全国の自治体をはじめ800か所以上に、回収ボックスを設置いただくに至ります。
そうして回収した制服も、実は約半数が廃棄になってしまいます。ほつれていたり、どうしても落ちない汚れがあったりするためです。そこで、廃棄品を繊維素材としてリサイクルする取り組みももうじき始めます。
馬場さん個人の困りごとから始まったビジネスが、今や全国的なSDGs活動に発展しているとは驚きです。今後はどのように発展していかれますか?
不登校や障がいを持ったお子さんに向けて、インクルーシブな(誰も取り残さない、包括的な)教育が受けられる場を高松に作ろうと思っています。そこでは地域の大人たちが先生になって、実際の仕事を通じた生きる力を育む教育をしてくれます。昼食や夕飯もみんなで一緒に食べ、誰もが自然体でいられる空間づくりがしたいですね。

これまで、ハンディを持つ子どもと地域の大人たちが関われる場所は多くありませんでした。社会的弱者に対してどんな手助けをすればいいかが分かれば、大人たちの行動が変わります。さくらやというコミュニティづくりの経験を通じて、地域の未来をよりよい方向に変えていくお手伝いができたらと思っています。
さくらやの創業ストーリーについて詳細を知りたい方は、馬場さんのご著書『さくらやぼん ローカルを巻き込みながら奮闘した3650日に学ぶ(株式会社tao.)』をご覧ください。自分の困りごとは、地域にとっての困りごと。現代社会が大切にしたいコミュニティビジネスの在り方が書かれた一冊です。

ご講演のご依頼は、吉本興業HPより。
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