SDGs INTERVIEW

スリランカで女性雇用を創出すると共に、日本人女性に「セルフラブ」の心を広める|フィットネスウェアブランド「kelluna.」の取り組み
INTERVIEW #09

スリランカで女性雇用を創出すると共に、日本人女性に「セルフラブ」の心を広める|フィットネスウェアブランド「kelluna.」の取り組み

kelluna.
代表 前川裕奈さん

「インド洋の真珠」とも言われる緑豊かな美しい島国「スリランカ」。
そのスリランカに⾃社⼯房を持ち、紛争被害を受けた⼥性や、何らかの理由で労働市場に参⼊できなかった⼥性たちを雇⽤するフィットネスウェアブランドが「kelluna.(ケルナ)」です。今回、代表の前川裕奈さんに、「kelluna.」を立ち上げた経緯、そしてブランドテーマである「セルフラブ」というメッセージに込めた想いについてお話を聞きました。

プロフィール

前川裕奈

慶應義塾大学法学部在学中に、米国及びガーナに留学をし、国際開発学を専攻。三井不動産で数年間勤務後、早稲田大学大学院・ジョージワシントン大学院にて、南アジアの女性に対する職業訓練に関して研究し修士号取得。世界銀行DC本部で、インド北部州の雇用に関するプロジェクトを担当し、女性の雇用問題に関して現地調査を行う。その後、JICA本部に入構し、スリランカと出逢う。出張やプロジェクトを通し、実際にスリランカで暮らしたい想いが膨らみ、2017年後期からは外務省の専門調査員(平和構築担当)として在スリランカ大使館に派遣。
スリランカ滞在中、1年8ヶ月かけてkelluna.を自ら準備し、大使館勤務終了後、2019年8月にkelluna.設立と同時にブランド代表に就任。スリランカの女性雇用活性化と日本の女性のself-love促進を主軸として活動。また、「ジェンダー」「セルフラブ」等をテーマとした講師/登壇活動も積極的に行う。

スリランカ女性から学ぶ「セルフラブ」
まず、「kelluna.」というブランドについて教えてください。
「kelluna.」は、”Beauty comes from self-love”をコンセプトとしたフィットネスウェアブランドです。容姿を”無理して”変えるためのフィットネスではなく、心が笑顔になるフィットネスをライフスタイルに、という想いをベースに「セルフラブ(自己肯定感)」というメッセージを発信しています。

また、スリランカの⼥性に雇用を創出し、現地の自社工房で製作しています。廃材やアップサイクル生地を活用することで、「自分に優しく(セルフラブ)、人に優しく(雇用の創出)、地球に優しく(素材へのこだわり)」を主軸としています。
何がきっかけでスリランカとの出逢ったのですか?
前々職(JICA)で、スリランカのプロジェクトを担当したことがきっかけです。度々出張をする中で、「現地に住み、文化や価値観をもっと身近に感じたい」と思ったことから、前職の外務省に転職し、現地に駐在することを決めました。
スリランカの最初の印象は、どのようなものでしたか?
“キラキラとした宝石が詰まった宝物箱”のような島だと思いました。もちろん、文化の違いや不便な点はあります。しかし、スリランカには、日本では忘れられてしまっているような、心の底からあふれる笑顔を見せる人々の活き活きした姿がありました。自分を大切にし、血がつながっていなくても家族のように他者を思いやる気持ちを、多くの人が持っています。スリランカは、私にとってまさに「serendipity(偶然からなる幸福)」です。
二国間で女性がエンパワーしあう関係性
ブランドの立ち上げに至るまでのストーリーをお聞かせください。
私自身、20代の頃に「痩せなければいけない」という考えに縛られ、それが極端なダイエットにつながり、過食と拒食を繰り返していました。もともと運動は好きでしたが、当時は無理をしながら、痩せるためのものになっていました。

しかし、アメリカ留学をきっかけに、細さだけが美しいわけではないと、考えるようになりました。多様な体型を持つ周りの友達は自信にあふれているけれど、私だけが常に自分に対して萎縮している…。痩せたところで、そこに笑顔がなければ美しくないということに、気づくことができました。

このような自身の経験や運動との付き合い方から、日本の「細ければ良い」「白ければモテる」といった「限定的な美」を、どうにかして変えたいと思うようになりました。
そこにスリランカ女性との出逢いが重なったのですね。
自己愛にあふれるスリランカ女性たちに出会った時、彼女たちから日本女性に届けられるものがあると感じました。彼女たちの多くは、形や色にとらわれず自分に自信があり、その姿勢が輝きをはなっています。また、彼女たちの「自活して笑い合えるコミュニティが欲しい」という声にも応えたいと思ったのも理由です。

そんな中で、スリランカの女性には雇用の場を、日本の女性には「セルフラブ」の心を届けるという、双方向に女性をエンパワーするブランドを作ることが、いつの間にか頭の中に描かれていました。
ブランドを展開していく方法はさまざまだと思います。その中で、なぜ「フィットネスウェア」にフォーカスしたのですか?
容姿の多様性を入り口として「セルフラブ」を伝えるためにも、「無理して体を変えるフィットネス」ではなく、「心を笑顔にするライフスタイルのフィットネス」を提唱したかったのが理由です。そのためにも、商材はウェアである必要がありました。

自分自身もかつては痩せるために運動していましたが、今は自分を笑顔にさせるために趣味であるロードバイク、マラソン、そして筋トレの存在があります。「運動との付き合い方」は変わったものの、私自身10年以上にわたって運動が生活の一部にあるため、自分が実際に使いたいもの、「愛を持って提供できるもの」であることも必須でした。

「売れるもの」を前提にするなら、ウェアではなかったかもしれません。しかし、私が自分で身近に感じて、トライアンドエラーして良い物を作れるのはフィットネスウェアでした。
ブランドの立ち上げに向けて、大変な点もあったと思いますが…。
現地の女性たちと、本質的な信頼関係を築くのは、1日や1ヶ月でできることではありません。お互いの「常識」も違う中で、突然見知らぬ日本人がやってきて事業展開しようとしたところで、自分達の人生をどこまでそれにコミットして良いのか、戸惑いがあるのも当然だと思います。

工場やアイテムを用意して教育を整えるのはすぐにできましたが、実際に彼女たちに「you are our family」と認めてもらい、私も自分の魂を彼女たちに捧げて良いと思うまでに、2年弱もの期間をかけながら、互いに歩み寄り、信頼関係を育みました。
ブランド名の「kelluna.」には、どのような思いが込められているのですか?
スリランカの公用語の1つであるシンハラ語で「kella」は「女性」を意味します。そこに、日本女性の名前の最後にある「na (奈、菜、那 など)」をつけることで、日本人女性とスリランカ女性の「コラボレーション」(日本人女性のセルフラブ×スリランカ女性の雇用)を表現しました。

また、最後に終止符「.」をつけているのは、「女性同士で何かを完遂することは可能だ」という意味を込めています。
ブランドを運営する道のりの中で、嬉しかったエピソードがあれば教えてください。
お客様からDMなどのメッセージで、「ありのままの自分で良いと背中を押された」「救われた」という言葉をもらえることはとても嬉しく、私自身がそんな言葉に励まされています。さらに、ポップアップストアなどで、実際にお顔を見てお話しができることも、喜びを感じます。

このブランドは、日本人女性とともに、スリランカ人女性の心からの笑顔を増やしたいというのが一番の根底にあります。ですから、事業を継続する中で、ブランドに携わるスリランカ女性たちの喜びも同様に大切です。立ち上げた4年前に比べて、彼女たちから、より笑顔を、より自分に自信を持てる姿を見られるようになったことは、続けてきて良かったと改めて感じます。
一方で、日本社会の中に「セルフラブ」を広めていくには、課題も多いと感じます。どのようにお考えですか?
若い世代を中心とした、日本でのSNSの在り方には疑問を感じます。例えば、「35kgの私が1日に食べるもの」といった動画がアップされたり、加工アプリで現実離れした写真を載せたりすることが、デフォルトになっています。

また、ありのままの自分を「良し」とするのが難しい環境にあるようにも感じます。メディアから発信される情報も、「夏までに-5kgの体を手に入れるためには…」など、細くて・白くて・若いことのみが「正義」とされていて、無意識のうちにそれだけが「良し」とされるマインドセットや社会的期待値ができています。「unconsious bias (無意識の差別)」が多く、これは目にみえる差別と同じくらい苦しみも招き、払拭するのが難しいと感じます。

しかし、このブランドには、私自身の経験と信念をベースにした魂が宿っています。このような課題をクリアするために、ブランドを通してメッセージを発信し続けていきたいと思っています。
スリランカでの女性雇用創出、美の多様化へ向けたメッセージ発信、地球にやさしいモノづくり。
「kelluna.」というブランドは、結果としてSDGsへとつながっているのですね。
そうですね。私たちの事業は、SDGsという言葉が、今ほど普及する以前から取り組んできたものです。一部では流行り物のように扱われる場合もあり、似たようなブランドも多く立ち上げられています。もちろん良いことではありますが、一部本質から外れた側面を持つケースも見受けられます。私たちは、常に本質的なものでありたいと強く思っています。
ありがとうございます。それでは最後に、これからの展望について教えてください。
私は、「アパレル」「物販」がやりたい訳ではなく、「届けたいメッセージがある」というところで、フィットネスウェアを販売することにしました。その世界観を届けるためには「アパレル」「物販」にとどめる必要はなく、ワークショップやフィットネスイベントを通して、“face to face”の場をもっと増やしたいと考えています。

コロナ前は、スリランカへのツアーを組んで工房見学をすることで、作り手と使い手が対面できたらと思っていたので、もう少し落ち着いたら実行したいと計画しています。
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