SDGs INTERVIEW

自利利他の精神で築く地域の未来|株式会社常盤工業の取組み
INTERVIEW #17

自利利他の精神で築く地域の未来|株式会社常盤工業の取組み

株式会社常盤工業 経営基幹本部 経営基幹部
高橋脩夫さん

地域とともに歩む建設業の未来を創る

「建てる」だけではなく、「活かす」建物づくりを目指す常盤工業株式会社(本社=静岡県浜松市)。創業99年の歴史を持つ同社は、地域に根ざした総合建設業として、社会の変化や要請に応じながら自らのあり方を見直し、持続可能な未来の実現に向けた取り組みを進めています。今回は、常盤工業のSDGsに対する姿勢と取り組み、そしてその先に描く未来について話をお伺いしました。

プロフィール

高橋 脩夫

栃木県宇都宮市出身。早稲田大学社会科学部卒業後に大手メーカー、商社勤務を経て、2018年常盤工業株式会社へ入社。社内でSDGsの推進に取組む一方で、SDGs for school認定エデュケーターとして教育機関を中心に社外へのSDGs普及活動も行う。2025年経営学修士(MBA)を取得し、同社事業の強化を通じて地域活性化を目指す。

まず、御社の事業概要についてお聞かせください。
当社は、総合建設業、いわゆるゼネコンとして、オフィスや倉庫、学校などの建築を中心に、土木や住宅といった幅広い分野を手掛けています。施工の7割が建築工事で、残りの3割が土木と住宅事業が占めます。静岡県西部を中心に、現場主義を大切にし、自社の現場監督が職人と連携しながら丁寧な仕事を行っています。社内には設計や積算部門も備え、初期の企画段階から提案も行える体制が整っています。

創業者が左官職人というルーツを持つ当社は、「丁寧なものづくり」を大切にしており、現場の細部にまで目を配る文化が根付いています。そうした姿勢が評価され、お客様からの信頼にもつながっています。
SDGsに取り組むようになった背景を教えてください。
最初にSDGsという言葉を耳にしたときは、「そういうものがあるんだ」という印象でしたが、その考え方は当社の理念と重なるとも感じました。建設業には元々公共性があり、地域と共に発展するという視点が不可欠です。当社の社是「自利利他」は、まさに共存共栄の価値観であり、SDGsの思想と合致するものでした。

現会長は、かつて「盛和塾」で稲盛和夫氏のフィロソフィーを学んでおり、理念を重視する経営が根付いています。SDGsは単なる流行ではなく、自社の価値を再定義し、伝えるためのツールでもあると考えています。

また、建設業という業種の特性上、社会インフラに深く関わることが多く、災害対応や地域活性化にも関与してきました。これらの経験がSDGsの目標とも強くリンクしていると実感しています。

御社の社屋「ときポート」をはじめとする具体的な取り組みについてお聞かせください。
2021年に完成した本社社屋「ときポート」は、ゼロエネルギー(ZEB)を実現した建物です。環境への配慮と、働く人の快適性の両立を追求し、設計段階から多くの視察を行いました。地下水や太陽熱を活用し、夏や冬もエアコンを使わず快適に過ごせるこの建物は、環境と人に優しい「体感型」の施設として、地域に広く公開しています。

また、地域交流イベント「ときはまフェス」の開催やギャラリー開放など、建物を単なるオフィスではなく、地域資源として活用する工夫も取り入れています。地元の「浜松磐田信用金庫」との連携で誕生した複合施設という点も、地域貢献の象徴的な取り組みです。

こうした活動が評価され、「SDGs建築賞 国土交通大臣賞」など複数の賞を受賞しました。特に、技術的に突出した革新性よりも、既存技術の組み合わせと普及性が評価された点は、当社の実直な姿勢が伝わった結果だと考えています。

取り組みに対して社内外の反応はいかがですか?
当初は会長のトップダウンで始まりましたが、社内研修やメディア露出、各種受賞を通じて、社員の理解と意識も高まってきました。静岡銀行の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」を受けるにあたり、外部評価も得ており、SDGs推進委員会がKPIを掲げながら活動を進めています。

社員からは「自分たちの仕事が社会の役に立っていると再認識できた」との声も上がっており、取り組みが社内文化の醸成にもつながっています。こうした意識の変化が、日々の業務に対する誇りにもつながっているように感じます。

課題と今後の展望について教えてください。
ゼロエネの建物を普及させたいという想いはあるものの、中小企業にその価値を理解していただくのは簡単ではありません。初期投資が高く見えるため、社会的意義を地道に伝えるとともに、イニシャルコストを抑えた提案ができるように私たちも企業努力を行ってまいります。また、地域のNPOや団体との連携では、民間企業とタッグを組むことへの抵抗感を払拭し、互いに理解を深めることが鍵になります。そのためには、相手の活動への理解と尊敬の念が協働の起点との考えで連携を深めていければと思います。

さらに、建設の仕事は完成後の使われ方によってその真価が問われます。私たちは、施設の使い方やその空間で生まれる体験も我々の提供価値に含まれると考え、ハード面とソフト面の両方に目を向けています。その視点が、当社独自の提供サービスにもつながり住み続けられるまちづくりに貢献できると考えています。

最後に、同業他社や地域企業へのメッセージをお願いします。
特別なことをしなくても、どの企業もすでに社会に価値を提供しています。まずはその価値を見つめ直すことが、SDGsの第一歩です。そこから「自分たちらしい取り組み」を見つけ、地域とともに歩んでいけたら、社会はもっと豊かになると信じています。

また、地域で同じ業種の企業同士が互いに切磋琢磨することも重要です。違った視点や方法があるからこそ、多様性のあるまちづくりが実現できます。私たちも、子どもたちの見学時には「うちの考えがすべて正しいわけではない」と伝え、多様な価値観を認める姿勢を大切にしています。

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