SDGs INTERVIEW

食と農が子どもの“生きる力”を育む|認可保育園「れんりの子」の取組み
INTERVIEW #18

食と農が子どもの“生きる力”を育む|認可保育園「れんりの子」の取組み

園長
富田知可子さん

浜松市都田町にある認可保育園「れんりの子」。緑豊かな自然に囲まれた約6,000坪の敷地内に、農園・レストラン・カフェなどを併設しており、「食」「自然」「遊び」「人」に恵まれた環境にあります。
“食農保育”を通じて、子どもたちが「共に生きる力を育む」ことを目指す同園では、自然とふれあう中で命や循環の大切さを体験的に学べるユニークな保育が行われています。
今回は、運営母体である「愛管株式会社」の理念や事業とのつながり、日々の保育活動について、園長の富田知可子さんに話を伺いました。

まずは、運営母体である「愛管株式会社」の事業概要について教えてください。
愛管は「Life Spiral Up 静岡から幸せの好循環を生み出す」という理念のもと、水でつなげる街づくりと社会貢献を主軸に、配管工事をはじめ、飲食、保育、農園、グランピング事業など幅広く展開している会社です。「フランスの片田舎のような農園をつくりたい」「自然に囲まれた中で食事を楽しみたい」という創業者の思いがありました。現社長である中村将義がそれを受け継ぐ形で、農薬を使わない野菜づくりやレストランの運営などが始まりました。

これらの事業に共通するのは、“暮らし”に根ざした取り組みだということ。配管はライフラインそのものですし、食や保育、農業なども人々の生活を支えるものであり、全てが循環の中にある。愛管は、そのつながりを意識しながら、地域の暮らしをより豊かにする仕組みづくりを大切にしています。
そのような事業展開の中で、なぜ保育園の設立に至ったのでしょうか?
社長が父子家庭で育ち、保育園での温かい思い出が多く、自ら保育園を運営したいという想いを持っていたことがきっかけです。父である先代にも相談し、「ぜひやってみたらいい」と背中を押されたそうです。

私自身も、これまで幼稚園教諭や大学講師を経て保育に関わってきましたが、いわゆる「イベント的な食育」にはずっと違和感を持っていました。例えば、芋掘り体験も、自分で育てていない芋を掘るだけという形式では本質的な学びにはならない。そんな思いがあった中で、「ここに農園をつくりたい」と社長に依頼したところ、快諾してくれました。そこから思い切り、食と農を中心に据えた保育を始めることができました。

開園当初は手探りでしたが、「どうせやるなら本物を見せたい」という思いで、土づくりから始めました。ブルーベリーやジャガイモ、ナスやキュウリなど、子どもたちが食べたいものを一緒に育てることで、「おいしいってこういうことか」「自分で作ったら嫌いな野菜も食べられた」と、感性の変化が目に見えて分かるようになりました。

“食農保育”の中では、具体的にどのような活動が行われているのでしょうか?
園舎に併設された「こどものうえん」では、園児たちが自ら野菜を育て、収穫し、給食やおやつに活用しています。子どもたちは、種をまき、芽が出る喜びを感じています。育てた作物が鳥に食べられてしまう時は、「どうすれば守れるか?」と考え、DVDを見ながらカカシをつくるなど、主体的に学んでいます。

味噌づくりも自分たちで行い、「麹って何?」「どうやって作るの?」と調べたり、日本オーガニック株式会社さんと連携して肥料づくりに取り組んだりもしています。魚をさばく体験を通じて「命をいただく」ことを実感し、川の環境や残食問題にもつながっていく。子どもたちの学びの連鎖が、想像を超える形で広がっています。

ある時、畑にできたキュウリが一本しかなかった日がありました。「誰が食べる?」という話になったとき、子どもたちが自然に「切って分けよう」と言い出したんです。そこには、自然と生まれる協力や思いやりがありました。

園の方針として掲げる「共に生きる力」とは、どのような力でしょうか?
「共に生きる力」とは、他者と関わりながら生きる力です。困難にぶつかったときに誰かと助け合うこと、自分で考えて行動すること、自然や命を大切にすること。それらを、農業や食、地域の人たちとの交流を通じて身につけていってほしいと願っています。

あるとき、子どもたちが自分たちで野菜を育て、その野菜を販売するシミュレーションをし、収益で買いたい物を考えるという活動をしました。必要な数量を数えたり、味の違いを考えて調味料を工夫したりと、「文字」「数字」「プレゼン能力」への関心が自然と生まれる、まさに学びの宝庫となりました。

また、虫取りが好きな子が「虫博士」として仲間に解説したり、虫が苦手な子に優しく教える姿が見られたりと、子どもたちの個性が生きる場面もたくさんあります。子どもたちの中に“教え合う文化”が自然に育っているのです。

SDGsとのつながりは意識されていましたか?
正直、はじめは意識していませんでした。でも、コンポストで野菜くずを堆肥にしたり、廃材を使って看板や遊具をつくったり、私たちの保育にはSDGsにつながる活動が日常の中にあると気づきました。給食の残菜を減らすために味つけを工夫したり、いたんだブルーベリーを絵の具にしたり、子どもたちが無駄にしない意識を自然と身につけているのが分かります。

子どもたちは廃材を「宝物」と呼び、自ら遊具をつくろうと夢中になります。廃材でつくったブランコやうんてい、水道管の門など、愛管の社員が一緒になって制作に携わってくれることで、「プロから学ぶ」体験にもなっています。

私たちは、与えるだけの保育ではなく、子どもたちが自ら考えて「これをやってみたい」と言い出す瞬間を大切にしています。SDGsは特別なものではなく、暮らしそのものの中にある。それを体感できる毎日こそが、何よりの学びの場だと思っています。
地域や保護者への広がりについても教えてください。
農園での取り組みを通じて、 配合肥料製造・販売会社の日本オーガニックさんや、麹を活用した事業を展開する会社「オリゼ」さん、常葉大学の学生など、地域の企業や教育機関とのつながりが生まれました。子どもたちがシソジュースをつくると、家庭でも作るようになったり、子どもが親に漬物の漬け方を教えたりすることもあります。子どもから家庭へ、家庭から地域へと、好循環が広がっています。

保育園の野菜を「おいしい」と食べる子どもを見て、「スーパーの野菜との違いがわかるようになった」と話す保護者もいらっしゃいます。こうした気づきが、家庭の食や暮らしを見直すきっかけにもなっているようです。ある保護者の方が「園での経験を通じて、家でも生ごみを堆肥にするようになった」と話してくれました。保育園が“暮らしの学び場”として、親世代にも影響を与えていることを実感しています。

今後、「れんりの子」で取り組みたいこと、目指す姿を教えてください。
保育園は、子どもたちだけでなく、保護者や地域、企業ともつながる“ハブ”のような存在になれると感じています。ここで育った子が、将来レストランのシェフになったり、管工事の職人になったりして、成長していつか戻ってきてくれたら嬉しいです。

今後は障がいのある子も地域の子も一緒に過ごせるようなインクルーシブな保育の環境づくりにも挑戦したいと考えています。子どもたちが多様性の中で育ち、違いを受け入れる感性を自然と身につけられるような場にしたい。そのためにも、大人である私たちが学び続けることが大切です。

これからも、子どもたちが暮らしの中で自然や命にふれ、地域とともに育っていく場所であり続けたいと思っています。

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