SDGs INTERVIEW

福祉と企業をつなぎ、働く可能性をひらく誰一人取り残さない社会を支える取組|認定NPO法人オールしずおかベストコミュニティの取組み
INTERVIEW #20

福祉と企業をつなぎ、働く可能性をひらく誰一人取り残さない社会を支える取組|認定NPO法人オールしずおかベストコミュニティの取組み

認定NPO法人オールしずおかベストコミュニティ専務理事兼事務局長
西田郁夫さん

障がいのある方の就労支援や自立支援を通じて、地域社会とのつながりを広げる「認定NPO法人オールしずおかベストコミュニティ」。福祉と企業の間に立ち、双方をつなぐ役割を担いながら、多様な連携による新たな仕事づくりや仕組みづくりに取り組んでいます。

今回は、同法人で専務理事兼事務局長を務める西田郁夫さんに、これまでの取組や社会課題への向き合い方、そして今後の展望についてお話を伺いました。

プロフィール

西田郁夫

静岡県磐田市出身。東北大学法学部卒業後、静岡県庁に入庁。福祉や県税の現場を経験した後、人事・労務分野を中心にキャリアを重ね、健康福祉部部長代理、文化・観光部長を歴任。逆さ富士の外観が特徴の「静岡県富士山世界遺産センター」の完成時には、自身が携わってきた取組が形になったことに思わず涙したという。県庁退職後は静岡県農業信用基金協会を経て、約3年前より同NPO法人の事務局長を務める。

まずは、「認定NPO法人オールしずおかベストコミュニティ」の概要を教えてください。
私たちは、障がいのある方とそのご家族、福祉サービス事業所の職員、地域企業など、関わるすべての人が幸せになる社会の実現を目指して活動しています。

主な取組としては、障がいのある方の工賃向上支援や就労支援、文化芸術活躍支援の3つを柱としており、最近では農業と福祉をつなぐ「農福連携」にも取り組んでいます。静岡県からの受託事業を中心に、地域に根ざした支援活動を行っています。

私たちの理念は、「障害のある人のはたらく笑顔で、福祉と企業、地域の心をつなぐ」こと。障がいのある方が働くことを通じて社会とつながり、その関わりの中で企業や地域も含めたすべての人が元気になる、そうした循環をつくることを目指しています。

設立は平成22年3月で、静岡県において、障がいのある方が地域で自立した生活を送るためには、福祉と産業をつなぐ機関が必要であるという考えに基づき立ち上がりました。企業側には「福祉事業所でどの程度の仕事ができるのか分からない」、一方で福祉事業所側には「企業が何を求めているのか分からない」といった課題があります。

私たちは、その間に入り、それぞれの考えやニーズを整理しながら“より良いものに取引内容を変換する”ことでつないでいく役割を担っています。単なる紹介にとどまらず、仕事づくりや販路の開拓なども含めて支援している点が特徴です。

開設当初から運営されている「障害者働く幸せ創出センター」について教えてください。
静岡県が設置し、私たちが受託運営している機関です。行政はどうしても分野ごとに窓口が分かれがちですが、利用者にとっては複数の窓口を回ること自体が負担になります。

そこで当センターでは、障がいのあるご本人やご家族、福祉事業所、企業など、さまざまな立場からの相談を一括して受け付けています。それぞれの状況に応じて、適切な支援や関係機関につなぐ“ワンストップ窓口”、障害者優先調達法に則った「共同受注窓口」として機能しています。

また、農業分野では人手不足が深刻であることから、障がいのある方が施設外就労という形で農作業に関わる仕組みづくりやマッチングも行っています。さらに、芸術活動の発表機会の創出など、多様な支援にも取り組んでいます。

活動の中で印象に残っていることはありますか。
就労支援の現場に同行した経験が印象に残っています。企業と福祉事業所の間に立つ「雇用サポーター」と同行した際、彼らが実際に働く方と直接言葉を交わしている姿を目にしました。

「今日はどうだい?」「うまくいっているか?」と声をかける様子で、その方の表情や変化を感じることができました。制度や仕組みだけではなく、一人ひとりと向き合うことの大切さを実感し、自分の仕事が現場にどう関わっていくのかを強く意識するきっかけになりました。

企業や地域との連携で生まれている取組について教えてください。
代表的な取組の一つが「一人一品運動」です。これは、福祉事業所で作られた製品(福産品)を、県職員や企業の従業員の方が継続的に購入することで、障がいのある方の工賃向上を支援する取組です。

具体的には、1,000円から3,000円程度の予算で製品を詰め合わせたセットを企画し、注文販売を通じて提供しています。購入された代金は、経費を除いたすべてが利用者へ還元される仕組みとなっており、直接的な工賃向上につながっています。

県庁では例年1,000セット規模の販売実績があり、継続的な取組として定着してきています。当初は県職員向けの取組でしたが、現在は企業や団体へも広がりつつあり、さらに市町へも展開していきたいと考えています。

さらに最近では、土木分野と福祉をつなぐ「建福連携」にも取り組んでいます。例えば、県の静岡土木事務所が発注する「麻機遊水地」の堤防除草作業を福祉事業所に仲介するなど、これまでにはなかった形での連携が生まれています。建設業界の担い手不足の解消と障がいのある方の就労機会の創出を同時に実現する新しい取組です。

現在の社会における課題について、どのように感じていますか。
障がい者雇用については、法定雇用率は2.5%(令和8年4月時点)と定められていますが、静岡県の特に中小企業では受け入れ体制の整備が難しく、十分に障害者雇用が進んでいるとは言えない状況があります。また、収入面も大きな課題です。障害基礎年金(2級)は年間で約84万円程度、月にすると7万円前後です。そこに工賃が加わり生活することになりますが、工賃には最低賃金のような法的な基準がなく、十分な水準に達していないケースも多く見られます。

工賃を加えて月10万円程度まで収入が向上すれば、生活の安定にもつながります。その実現に向けて、仕事の創出や販売機会の拡大に取り組んでいく必要があります。

貴法人の活動は、どのような点でSDGsにつながっていると感じていますか。
SDGsの17の目標の中では、「目標1:貧困をなくそう」「目標8:働きがいも経済成長も」「目標10:人や国の不平等をなくそう」に該当すると考えています。私たちの活動は、これらの基礎となる部分を担っているものだと感じています。

SDGsBOOKで掲げられている「誰一人取り残さない」という考え方は、まさに私たちの活動そのものです。障がいのある方が働くことや社会と関わることを当たり前のものとして捉え、それを支える仕組みをつくることが重要だと考えています。

SDGsが広く認識されるようになったことで、行政や企業がこうした視点を持つ機会が増えたと感じています。世界的に価値観が変化している中で、SDGsがその後押しになっていると感じており、その点については非常に意義深いものだと思っています。

今後の展望についてお聞かせください。
決して華々しいことではありませんが、一つひとつ着実に取組を広げていきたいと考えています。

「一人一品運動」についても、これまでは県中心の取り組みでしたが、今後は静岡市や浜松市など各市へと展開していきたいと考えています。県庁での販売実績を市単位へと広げていくことで、より大きな力につながるはずです。行政から始まり、それが民間へと波及していく流れをつくっていきたいと思っています。工賃向上に向けた取組に引き続き注力しながら、福祉事業者所の手足となり、現場に寄り添った支援を続けていきます。

そして何より大切にしたいのは、障がいのある方を特別な存在としてではなく、「違いではなく特性」として理解していただくことです。現在、日本には身体障がい者が約423万人、知的障がい者が約126万人、精神障がい者が約603万人おられ、合わせるとおよそ1,100万人規模、人口の約1割にのぼるとされています。障がいは決して一部の人に限られたものではなく、誰にとっても無関係ではない、社会の中にある身近なものです。

以前、重度の障がいのある方が「私は私の人生を生きている」と話していた言葉が強く印象に残っています。周囲からどう見られるかではなく、その人自身の人生があり、その人なりの価値や幸せがあります。そうした一人ひとりのあり方を理解し、ありのままに受け止めていくことが、結果として社会全体の働きやすさや暮らしやすさにつながっていくのではないかと感じています。


福祉と企業、地域をつなぐ中間的な存在として、一つひとつの取組を着実に積み重ねてきた同法人。「特別ではなく、それぞれの特性として理解してほしい」という言葉には、これまで多くの現場に向き合ってきたからこその実感が込められていました。

誰もが関わり合いながら生きていく社会の中で、「誰一人取り残さない」という理念を現場から支える取組は、これからますます重要性を増していきそうです。
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