SDGs INTERVIEW

地域の恵みを酒に、酒造りの副産物を新たな価値へ<br>人と人をつなぐ循環型の酒造り|花の舞酒造の取組み
INTERVIEW #21

地域の恵みを酒に、酒造りの副産物を新たな価値へ
人と人をつなぐ循環型の酒造り|花の舞酒造の取組み

花の舞酒造株式会社 商品部部長
下村昌さん

地域の恵みと人のつながりを酒造りへ

1864(元治元)年創業の花の舞酒造株式会社。静岡県産の米と南アルプス・赤石山脈の地下水を使い、地域の風土を生かした酒造りを続けています。

契約農家とともに取り組む酒米づくりをはじめ、米ぬかや酒粕といった副産物の活用、一升瓶の回収と再利用など、同社の酒造りには、地域の資源を無駄なく生かす姿勢が根付いています。

今回は、花の舞酒造株式会社で商品部部長を務める下村昌さんに、地域に根ざした酒造りや資源循環への取り組み、その根底にある思いについてお話を伺いました。

プロフィール

下村 昌

食品メーカーに勤務する中で、HACCP(ハサップ)に基づく衛生管理業務に従事。日本の伝統文化である日本酒に深い興味を持ったことから、酒造りの世界へ。「花の舞酒造」では、これまでに培った食品安全の知識と経験を生かし、徹底した衛生管理を通じて、伝統の技が息づく高品質で安全な酒造りを支えている。

まずは、花の舞酒造の事業概要と、酒造りで大切にしている考え方について教えてください。
弊社は1864年に創業し、清酒を中心に、リキュール、焼酎、みりんなどを製造する酒造メーカーです。

酒造りにおいて大切にしているのは、静岡県の米、水、人を生かし、地域に根ざした酒を造ることです。日本酒の原料には静岡県産米を使い、高級酒には酒造好適米の山田錦を使用しています。リキュールについても、静岡県産のユズやイチゴなど、地元の素材を積極的に取り入れています。仕込み水には、南アルプスの赤石山脈を水源とする地下水を使っています。地下約100メートルからくみ上げる軟水で、酒造りに適した水です。

また、原料だけではなく、酒造りに携わる蔵人や社員も地元出身者が中心です。地域で育った米と水を、地域の人の手で酒にする。地産地消という考え方が、弊社の酒造りの基本にあります。

山田錦の栽培では、地域の農家と長年連携しているそうですね。
現在は、静岡県西部を中心とする29軒の契約農家に、弊社の酒造りに使う山田錦を栽培していただいています。

農家の皆さんとは、単に米を売っていただく関係ではありません。「静岡山田錦研究会」を通じて、苗の状態や栽培方法、田植え、稲刈り、収穫した米の出来栄えなどを一緒に確認し、より良い山田錦を育てるための研究を約30年にわたって続けています。

農家の皆さんに「花の舞のための米」を作っていただき、私たちも酒造りの立場から必要な品質や特徴を伝える。農家と酒蔵が一心同体となって取り組むことで、静岡の風土に合った酒米づくりにつながっていると感じています。

酒造りで発生する副産物は、どのように活用していますか。
酒造りでは、米を精米する際に米ぬかが発生し、酒を搾る工程では酒粕が生まれます。弊社では約30年前から自社で精米しているため、米ぬかも自社から出る副産物の一つです。以前は米ぬかや酒粕の多くを漬物メーカーなどに提供していました。しかし、漬物の需要が変化する中で引き取り量も減り、新たな活用方法を考える必要が出てきました。

現在は、農家の方に直接買い取っていただいたり、メーカーと連携したりしながら、農作物の肥料や牛の飼料などに活用しています。牧之原のお茶農家やトマト農家などにも使っていただいており、肥料として利用すると植物の根張りが良くなると聞いています。地元ブランド牛の飼料として使われることもあります。

以前は、買い取ってくれる事業者に渡した後、どのように使われているのか分からないこともありました。現在は、実際に活用している農家の方から効果や反応を聞くことができます。私たちにとっても、米ぬかや酒粕の栄養価、新たな使い方を学ぶ機会になっています。

また、酒米の栽培段階でも、未利用資源を生かした取り組みに参加しています。2021年には、静岡市の西ヶ谷清掃工場でごみを処理する際に発生する溶融スラグを原料としたケイ酸質肥料「SKケイカル」を使い、浜松市内で酒米を栽培しました。収穫した酒米は花の舞酒造が原料として使用し、清酒として商品化しています。

酒造会社として、副産物の循環に取り組む意義をどのように感じていますか。
自分たちの酒造りから生まれたものが、地域の農業や畜産業に役立つことをうれしく思います。米ぬかや酒粕は、活用先がなければ廃棄物になってしまう可能性があります。しかし、見方を変えれば、栄養を含んだ地域資源です。その価値を必要としている人につなぐことで、新しい循環をつくることができます。

弊社だけで完結させるのではなく、農家やメーカーなど、地域の皆さんとつながりながら進めることにも意味があります。目先の利益だけではなく、人の心や関係を大切にし、地域と一緒に持続可能な仕組みをつくっていきたいと考えています。
米ぬかを使った袋も共同開発されています。取り組みの経緯を教えてください。
2023年に、名古屋市にある紙製品・袋のメーカーから提案をいただき、山田錦の米ぬかを練り込んだバイオマス系の袋を共同開発しました。現在は、弊社の直売所で商品を購入してくださったお客様に、買い物袋として無料でお渡ししています。

この袋は、単に商品を持ち帰るためのものではありません。お客様に対して「一緒に地球環境に優しい取り組みをしていきましょう」というメッセージを伝える役割もあります。袋には実際に米ぬかが練り込まれており、ほのかに米ぬかの香りもします。実際に、米ぬかの特性を生かし、野菜や肉の保存、生ごみの臭いを抑える用途などにも活用することもできます。

捨てられる可能性があったものを活用でき、お客様にも喜んでいただけて、環境への負荷軽減にもつながる。まさに「一石三鳥」の取り組みだと考えています。
一升瓶の回収と再利用にも、長年取り組まれていますね。
一升瓶については、30年以上前から自社で回収し、洗浄して再利用しています。回収した瓶のラベルを剥がし、瓶の中まで洗浄して、再び商品に使用します。瓶を砕いて新しい瓶に作り直す方法もありますが、そのまま洗って再利用する方が、製造に必要なエネルギーを抑えられます。

回収や洗浄には手間がかかるため、捨てて新しい瓶を使う方が簡単かもしれません。しかし、まだ使えるものを捨てる必要はありません。「使えるものは使おう」という、非常にシンプルな考え方で続けています。

米ぬかを使った袋と自社での洗瓶の取り組みは、地元浜北商工会を中心とした取組み「はまきたブランド」にも認定されています。特別なことを始めるというよりも、地域の中で長く続けてきたことを、これからも大切にしていきたいと思っています。

環境への取り組みと、お客様に対する姿勢には、共通する考え方がありますか。
根本にあるのは、お客様に幸せな時間を過ごしていただきたいという思いです。日本酒を飲む時間は、家族や友人、仕事仲間などと楽しく過ごす時間でもあります。弊社の酒で乾杯していただき、会話が生まれたり、縁が深まったりする。その場に私たちがいるわけではありませんが、その光景を想像すると、造り手として幸せを感じます。

売り上げや利益、商品の認知度を高めることも、企業としてもちろん大切です。しかし、酒造りの根本にあるのは、お客様の幸せな時間をつくることです。そのことを社員にも伝えています。
下村さんご自身は、日本酒や酒造りにどのような魅力を感じていますか。
日本酒は、単なる食品や飲み物ではなく、日本の伝統文化であり、伝統産業でもあります。私自身も、そうした文化に携わりたいという思いがあり、この仕事を始めました。日本酒は、日本の「国酒」として、昔から人と人の縁をつないできました。祝いの席や祭り、家族の集まりなど、人が集まる場には酒があり、楽しい時間をつくってきた歴史があります。

弊社の酒をきっかけに人が出会い、新たな縁が生まれ、そのつながりが地域から全国へ広がっていく。「人が人を呼ぶ企業」を目指しながら、酒造りを通じて皆さんと幸せをともに創り上げていきたいと考えています。日本人として誇りを持ち、日本酒の文化と技術を次の世代へ継承していくことも、酒造会社の大切な役割です。

契約農家との連携や酒蔵見学など、人と人とのつながりを重視しているのはなぜでしょうか。
すべての取り組みは、地域への貢献と人とのつながりに通じていると考えています。契約農家の皆さんとは約30年にわたり関係を築いてきました。米を作っていただくだけでなく、栽培の効果や米の状態について話を聞くことで、私たちも原料の栄養価や特徴を学ぶことができます。

日本酒だけでなく、米と米こうじから造る甘酒も、こうじ菌や原料について学びながら商品づくりを進めています。甘酒は「飲む点滴」とも呼ばれるほど栄養価が高く、日本酒を飲まない方にも米や発酵の魅力を伝えられる商品です。

酒蔵見学も、地域やお客様とつながる機会の一つです。見学した方に喜んでいただければ、その体験が口コミによって周囲の人へ伝わります。人から人へ花の舞を知っていただき、そのつながりが全国へ広がっていくことを期待しています。

目先の利益だけを追うのではなく、人の心を大切にしながら、関わる皆さんと幸せをともに創り上げていきたいと思っています。
今後、酒造りを通じて実現したいことを教えてください。
良い水と良い米を使い、まずはおいしい酒を造り続けることが基本です。料理の味を邪魔せず、引き立てる酒や、飲む人の好みに合った酒など、さまざまな楽しみ方を提案していきたいと考えています。

日本酒は海外で注目が高まり、需要も増えています。一方、国内では若い世代を中心に、酒離れや日本酒離れが課題になっています。「日本酒は年齢層の高い人が飲むもの」というイメージを変え、若い方にも身近に感じていただきたいです。

日本酒には、甘口、辛口という違いだけでなく、純米大吟醸や純米酒、本醸造など、原料や造り方によってさまざまな種類があります。原料にも品質の違いがあり、私たちは良い原料を使って、良い酒を造っているということを伝えていきたいです。まずは実際に飲み比べ、自分に合った一本を見つけてもらえたらうれしいです。静岡県内で培ってきた評価や信頼を大切にしながら、全国、そして海外へと花の舞の酒を届けていきたいと思います。


静岡県産の米と水を使い、地域の農家や蔵人とともに酒造りを続けてきた花の舞酒造。米ぬかや酒粕、一升瓶を新たな資源として生かす取り組みにも、下村さんが繰り返し語った「地域とのつながり」や「人の幸せを大切にする」という姿勢が表れています。

酒を飲む人、その時間をともにする人、原料を育てる人、そして酒を造る人。多くの人の思いをつなぎ、幸せな時間を醸していく花の舞酒造の取り組みは、日本酒の文化と地域の未来を次の世代へつないでいます。
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